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雨の神様 【呪術廻戦(春夏秋冬代行者)】

第8章 谷雨


優しい彼にそんな悲しい顔をさせておくのはなんだか寂しくて、私は少しだけ頬を染めながら、勇気を出して言った。

『……あの、憂太さん!私のこと、雫って呼んでください! 真希さんたちみたいに、名前で呼んでほしいな、なんて……。
お友達なのに、憂太さんだけずっと私のこと苗字にさん付けで呼ぶので、なんだか少し、寂しかったんです。だから、苗字じゃなくて……!』

「え……っ?」

まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。憂太さんは一瞬、目を丸くしてぽかんと驚いた顔をした。
驚きで固まっていた憂太さんだったけれど、すぐにその綺麗な瞳をふわりと細めると、今までで一番優しくて温かい、大好きな笑顔を私に向けてくれた。

「……うん、雫ちゃん。ありがとう」

耳に心地よく響いた、初めて呼ばれる私の名前。
「ありがとう」と、私のワガママを優しく受け止めてくれた彼の笑顔があまりにも眩しくて、私は胸がドクンと大きく跳ねるのを感じた。嬉しさと恥ずかしさで顔がカッと熱くなる。

嬉しいな……憂太さんと、もっと仲良くなりたい。

ぎゅっと着物の袖を握りしめ、私は心臓の音に負けないように、人生で初めての言葉を精一杯に紡ぎ出した。

『こ、こちらこそ……っ。な、名前で呼んでくれて……ありがとうございます、憂太……くん……っ!』

「え……っ」

生まれて初めて、同い年の男の子に向けて使った「くん」という響き。
ちゃんと言えているかも分からないくらい緊張して、私は恥ずかしさのあまり、そのまま両手で顔を覆って俯いてしまった。
真横から、憂太さんが息を呑むような気配が伝わってくる。
湖のきらきらとした水面に見守られながら、二人の心の距離がグッと縮まったのが分かって、私の胸は甘くてあたたかい幸福感でいっぱいになった。
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