第8章 谷雨
美味しいオムライスをお腹いっぱい食べて、のんびりとした贅沢な時間を過ごしたあと、お店の外へ出ると五条先生が楽しそうに私の顔を覗き込んできた。
「あそこの公園は大きな湖があるんだよ。せっかくだし、みんなで今度は湖のほとりを散歩しに行こう!」
『わぁ、湖ですか……っ? 行きたいです!』
私の返事にみんなも嬉しそうに頷いてくれて、私たちは再び、緑の公園へと足を踏み入れた。
五条先生の言う通り、公園の奥には太陽の光を反射して眩しく輝く、とても綺麗な湖が広がっていた。涼しい風が水面を渡って、私たちの頬を優しく撫でていく。
みんなで並んでお喋りをしながら湖のほとりをのんびり歩いていると、いつの間にか、少し先を歩く五条先生や真希さんたちの背中が遠くなっていた。
「……五月雨さん」
不意に右隣から声を掛けられ、私が足を止めると、隣を歩いていた憂太さんも同じように足を止めた。
振り返ると、憂太さんは少しきまずそうに、だけど本当に申し訳なさそうな表情で私を真っ直ぐに見つめていた。
「朝は、ごめんね」
憂太さんの口から出たのは、それだけの短い言葉だった。
具体的な『代行者』という言葉も、教科書の話も、彼は一切口にしなかった。だけど、私にはそれが何のことか、すぐに分かった。あえて理由を言葉にしないのは、きっと彼なりの配慮なのだろう。
車内でのことを、彼はあれからずっと気にしてしまっていたのだ。
私の正体や、事情が気になるのは当然なのに……。
憂太さん……本当に、優しいな……
彼の温かい気遣いが嬉しくて、胸の奥の痛みが綺麗に消えていく。私は一歩近づくと、そっと首を振って満面の笑顔を浮かべた。
『ううん。……大丈夫だよ、憂太さん』
気にしないで、という思いを込めて伝えたけれど、憂太さんはまだどこか、申し訳なさそうな顔で眉を下げている。