第8章 谷雨
勇気を出して車の外へと一歩を踏み出すと、そこには一面に白いシロツメクサが咲き誇る、おとぎ話のような広場が広がっていた。ここはシロツメクサが有名な公園らしい。
朝のあたたかい光を浴びて、昨日降った雨の雫がキラキラと宝石のように輝いている。
「おー! すげぇ咲いてるな! 雫、こっち来てみろよ!」
少し先を歩いていたパンダさんが、嬉しそうに手を振って手招きしてくれた。
私が小走りで駆け寄ると、パンダさんは大きな体を地面に丸めて、小さなシロツメクサの茎を不器用そうに編み始めた。
だけど、パンダさんの大きくて分厚い手では、細い茎を編み込むのは至難の業のようで……。
「うぐっ、……あ、あれ?」
パンダさんは大きな頭を抱え、困り果てたように声を漏らす。その手元にあるのは、編まれたものというより、ただクシャクシャに丸められた緑の塊だった。
「おいパンダ、それじゃ花冠じゃなくてただの草の塊だろ。センスねぇな」
「おかか、高菜」
真希さんが呆れたように容赦ないツッコミを入れ、棘くんもクスクスと肩を揺らす。
一生懸命なのにどこか抜けているパンダさんの姿があまりにもおかしくて、私の胸に仕舞い込まれていた緊張や不安は、一瞬にしてどこかへ吹き飛んでしまった。
『ふふっ……あはは!』
昨日からずっと強張っていた私の口元から、笑い声が自然と溢れ出す。
「あっ、雫が笑った! 草の塊を作った甲斐があったな」
パンダさんがニッと笑って大きな肉球を見せてくれる。みんなが私を元気づけようとしてくれていた優しさが伝わきて、胸の奥がひだまりのようにぽかぽかと温かくなった。
「よーし、パンダがダメなら僕たちの出番だね! 誰が一番可愛い花冠を作れるか勝負しよー!」
五条先生が、そう言って腕をまくり、憂太さんも「上手くできるかな…?」と芝生に腰を下ろす。そうして、みんなで並んでシロツメクサを編むことになった。
みんなでこうやって遊ぶの、すごく楽しいな……
お友達と芝生に座って、他愛のないお喋りをしながら同じ作業をする。そんな幸せを噛み締めながら、私はせっせと手を動かした。