第8章 谷雨
出たいのに、出ちゃいけない。私がここにいるだけで、みんなを傷つける引き金になってしまうかもしれない。
ウキウキしていた心が、一瞬にして深い不安と恐怖に塗りつぶされて、戸惑いで動けなくなってしまった。伸ばしかけた手が、カタカタと小さく震え出す。
ぎゅっと目を閉じて俯いていると、不意に車のドアが外から開いた。
「ほら、雫。そんな顔してないで、早くおいでよ」
見上げると、ドアを押さえた五条先生が、私を覗き込むようにして優しく微笑んでいた。
大きな手が私の頭にそっと置かれ、子どもをあやすようにぽんぽんと優しく撫でてくれる。
「大丈夫だから。君をここに連れてきたのは僕。何か言われたって、最強の僕が全部跳ね返してあげる。だから、今日は楽しもうよ……ね?」
『五条、先生……』
五条先生の有無を言わせない絶対的な安心感とぬくもりに、私の頑なだった心のブレーキが、優しく解除されていくのが分かった。
私は小さく深く息を吸い込むと、震える手をぎゅっと握りしめ、勇気を出して車から一歩を踏み出した。