第8章 谷雨
私の悲しい気持ちが、溢れ出して降った雨が残した景色を、みんながそんな風に「綺麗だ」と褒めてくれている。それがなんだか、私の存在そのものを丸ごと認めてもらえているようで、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「よし、じゃあみんな降りよっか!」
『はいっ!』
先生の言葉に元気に返事をして、車のドアを開けようと手を伸ばしかけて——私は、ピタリと動きを止めた。
……待って。本当に、私が行っても平気……?
一気に冷めていく頭の裏側で、昨夜、隣の部屋で皐月さんから冷たく言い渡された言葉が呪いのように蘇る。
『高専の連中が呑気に訓練に励もうが、あなたには関係のないことです。用が済んだらさっさと部屋に戻り、静かに過ごすこと。分かりましたね』
——いつもなら、私の傍らには皐月さんがいた。
私に冷たい言葉ばかりをぶつけるけれど——それでも彼女は真面目だから、仮の護衛官として、いつだってあの恐ろしい“賊”の手から私の命を守ってくれていた。
あっちからは酷く嫌われているし、私も彼女の冷徹な目が怖くて、悲しくて仕方がなかったけれど、それでも私は、少なくとも、彼女のおかげでここまで生きている。その事には、心から感謝していたのだ。
だけど、今の私の隣には、彼女はいない。
もしも、万が一にでもあの恐ろしい賊たちが今ここへ襲ってきたらどうしよう。皐月さんという盾がいないこの場所で、せっかく新しく出会えた優しい高専のみんなを、私のせいで危険に晒してしまったら——。そう考えたら、胸の奥が恐ろしさで急に冷たく凍りついていった。