第8章 谷雨
どうしよう………
いつの間にか、こちらをじっと見ている憂太さんの真っ直ぐな視線と、四季の代行者のお話。
心臓がバクバクと壊れそうなほど大きな音を立てていて、私は膝の上でぎゅっと着物の袖を握りしめることしかできなかった。
じっと見つめてくる憂太さんの視線に耐えられず、俯いた——その時だった。
「あはは! 憂太ってば、意外とそういうオカルトちっくなおとぎ話好きなんだね〜。かわいい〜」
助手席に座っている五条先生が、笑いながら会話に入ってきた。
「でもさ、そんなのいたら今頃大ニュースになってるでしょ? ほら、それよりもうすぐ目的地の大きな公園に着くよ! 何して遊ぶか考えといてよね〜!」
「え……あ、はい。すみません……」
先生のあまりにも自然な、だけど確実に、憂太さんのお話を遮るような物言い。
前を向いていて顔は見えないけれど、その言葉のおかげで車内の張り詰めた空気が和らぎ、私の心を支配していた負の感情がすうっと引いていくのが分かった。
五条先生………ありがとうございます……
先生がさりげなく私を庇ってくれたことに気づき、私は先生の背中に、心の中でそっとお礼を言った。
それからしばらく車の心地よい振動に揺られていると、やがて車が滑らかにスピードを落とし、静かに停車した。
「はーいみんな! 目的地に到着〜!」
先生の明るい声に誘われるようにして窓の外を見渡すと、そこには息を呑むほど美しい、真っ白なシロツメクサと緑の並木道が広がっていた。
『わあ……! すごい……っ』
思わず小さな歓声を漏らしてしまう。
昨日、私の心の揺れ動きに呼応するようにして降った、あの夜の雨。
その小さな雫たちが、まだ木の葉やシロツメクサのあちこちに残っていて、朝のあたたかい太陽の光を浴びてまるで宝石のようにキラキラと眩しく輝いていた。
「綺麗だねー。昨日少し雨が降ったから、そのおかげだね」
助手席から振り返った五条先生が、悪戯っぽく、だけどとても優しく私を見つめてそう言った。
「本当だな。葉っぱが洗われて緑がいつもより鮮やかだ。悪くねぇじゃん」
「だな。 水が光っててめちゃくちゃ綺麗だぞ」
「しゃけ!」
真希さんやパンダさん、棘さんまでもが、先生の言葉に嬉しそうに賛同する。憂太さんも隣で「本当に、すごく素敵な景色だね」と柔らかく微笑んでいた。
