第7章 夜雨
ガチャ、と音を立てて皐月サンの部屋のドアが開いた。
中から出てきたのは、雫だった。
出てきた雫はまるで、あの部屋から逃げるようにして飛び出すと、勢いそのままに、すぐ隣の自分の部屋へと駆け込んでいった。
声を掛ける暇すら、なかった。
ほんの一瞬、見えた彼女の顔は——すごく悲しそうで、泣き出してしまいそうな顔をしていた。
あの部屋の裏側で、一体どんな言葉をぶつけられてきたのか、想像するだけで胸クソが悪くなる。
今すぐ彼女の部屋のドアを叩いて、「大丈夫?」って話を聞いてあげたかった。
——だけど…僕は踏み出しそうになった足を、ぐっと踏みとどまらせた。
「……ま、今日は初日だしね」
今日だけでたくさんのことがあって、彼女の小さな身体は僕たちの想像以上に疲れているはずだ。それに、あんな顔をしている時は、1人で静かに心を休める時間も大切なんじゃないかと思ったから。
そう思い僕はまた、歩き出した。
雫のことをぐるぐると考えながら、歩いていて、僕は疑問に思った。
——そもそも、なんで僕はこんなにも彼女のことが気になっているんだろう。
いつもなら、他人の領域にここまで首を突っ込んだりしない僕が、自分の心の変化に、どこか戸惑いを感じていた。
ふと、今日初めて出会ったばかりのはずの、彼女の不思議な存在感を思い出す。
初対面のはずなのに、なぜだかそんな感じがしなくて……それどころか、彼女といると、不思議と僕の張り詰めた心まで穏やかに落ち着くような感覚があった。
無条件で、ただただ僕の手で守ってあげたくなるような、そんな切ない愛おしさ。そして、それ以上に、彼女の隣にいる時に感じる安心感。
心地良い声。
…… 雫が雨の神様だから、その力に当てられてるとか?
——な訳ないか
自分で考えた突拍子もない結論に、僕は心の中で小さく苦笑した。