第7章 夜雨
五条side
夕暮れの寮の廊下で、改めてあの護衛官——皐月サンという女を見て、僕は内心で深く納得していた。
『五条様、五月雨様がご迷惑をおかけしていないでしょうか』
事務的にそう聞いてきたあの女の、冷徹で思いやりのない態度に、僕は心の底から腹が立っていた。
だからあえて、とびきり底抜けに明るい笑顔を作って、「雫はすっごく良い子だよ」とこれ以上ないくらいに言い切ってやった。僕の答えを聞いたあの女は、案の定、不満そうに口元を歪めて自分の部屋へと引っ込んでいったけれど。
——今朝、初めて出会った時の雫は、まるで糸の切れたお人形のようで、どこか覇気のない雰囲気を纏っていた。
きっと、あの女の冷酷な態度にずっと耐え続けるのが、彼女にとっての “日常” であり、当たり前になってしまっていたんだろう。
だけど……あの冷たい女の態度に慣れていたはずの雫が、さっき廊下で彼女と会った時は、少し怯えているように見えた。
——理由は、分かっている。
今日1日、憂太たちのバケツをひっくり返したような温かい優しさに触れて、雫は確かに、柔らかい笑顔を見せてくれるようになっていたからだ。
そんな本物の “優しさ” を知ってしまったからこそ、あの女の冷徹さが、今の彼女にはより一層冷たく、怖く感じられてしまったんだろう。
これからどうやって、あの笑顔をもっと増やしていこうか……
そんなことを考えながら、誰もいなくなった静かな夜の廊下を歩いていた、その時だった。