第7章 夜雨
静まり返った暗い部屋の中で、膝に顔を埋める。
——きっと、皐月さんは焦っているんだ。
もうすぐ梅雨の期間に入るけれど、今年は時期を少し遅らせることになっている。それは決して私たちのせいではない。
だけど、スケジュールが遅れることそのものが、彼女は嫌なのだろう。
彼女が焦る理由なら、私だって知っている。
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季節は如何にして巡るか——。
問えば、教科書の答えではこう返ってくる。
「春夏秋冬は四季の代行者が巡らせる」と。
神より力を賜った現人神、四季の代行者が季節を世に授ける。
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そんなふうにこの国の誰もが当たり前に習った歴史も、今や、ほとんど誰も信じなくなっていた。歴史上の人物か、空想の産物。
10年も春が来ないという異常気象も、ただの地球の気まぐれだと思われていたのに。
……あの戦いが、すべてをひっくり返してしまったのだ。
今年、10年ぶりの春がこの国全体に広がった頃——。
代行者たちの敵である “賊” と、春夏秋冬の代行者たちがぶつかり合って激しい戦いになった。
代行者たちの家である “離宮” や “四季庁” が爆破されたり、秋の代行者様が拐(さら)われたりと、国を揺るがすほどの大事件。
おまけに、賊との戦いで冬の代行者が首都高を凍らせてしまったせいで、おとぎ話だったはずの四季の代行者の存在が、ついに公になってしまった。
——だけど、まだ “梅雨の代行者” の存在は公になっていない。
季節として期間が短いからか、かつて恵みを与えていた梅雨の代行者は、四季の代行者よりも早く表舞台から姿を消したからだ。
今や、学校の教科書の端っこに、ほんの少しだけ載っている、忘れられた存在となっていた——。