第6章 茂み雨
『ありがとうございます。……ふふ、お部屋、なんだかすごく楽しみです』
「あぁ、何にもない部屋だけどな。今度私の部屋にも遊びに来いよ」
「しゃけ、明太子」
「みんなでお菓子パーティーとかも楽しそうだよね」
真希さんたちのそんな温かい会話に笑いながら、みんなで寮の廊下を仲良く歩いていた、その時だった。
廊下の向こうから、カツカツと冷たい足音を響かせて歩いてくる人影があった。
——皐月さんだ。
『さ、皐月さん…』
「……あら、お戻りですか。ずいぶんと随行(おとも)が多いのですね」
街から帰ってきたらしい彼女は、私を見るなり、いつもの冷徹で感情の読めない視線をこちらに向けてきた。
一瞬にして廊下の空気がピリッと張り詰める。私は本能的に、ギュッと着物の袖を握りしめて身を硬くした。
「おい、随行とはなんだよ。私たちは仲間としてこいつを送ってきただけだ」
真っ先に一歩前に出て、少し鋭い声で言ってくれたのは真希さんだった。
それに続くように、パンダさんと棘さんも、私を背中に隠すようにして皐月さんの前に立ちはだかってくれる。
「そうですよ。五月雨さんは僕たちのクラスメイトですから、部屋まで送るのは当然です」
憂太さんも、いつもより少し低い、だけどとても強くて優しい声でそう言って、私の隣に寄り添ってくれた。
みんなが、出会ったばかりの私のために、当たり前のように皐月さんの冷たい視線から遮って守ろうとしてくれている。
「……そうですか。五条様、五月雨様がご迷惑をおかけしていないでしょうか」
みんなの気迫に押されたのか、皐月さんは私から視線を外して五条先生に一礼した。
先生は目隠しの奥でニカッと笑いながら、私の肩をポンと叩く。
「まさか! 雫はすっごく良い子だよ。みんなとももう大の仲良しだしさ。皐月さんも心配しすぎなくていいよ。」
「……左様ですか。」
皐月さんはどこか不満そうに、だけどそれ以上は五条先生に何も言わなかった。
彼女は冷徹な視線を私へと戻すと、有無を言わせない平坦な声で告げる。
「五月雨様。夜、私の部屋に来てください。今後の確認を行いますから」
『……はい、わかりました』
私が小さく頷くと、皐月さんはそれだけを言い残し、自分の部屋へと入っていった。
パタン、と扉が閉まる。