第13章 五月雨
五条side
「……っ」
目の前で繰り広げられたその光景に、僕はただ、声も出せずに圧倒されていた。
藍色の美しい着物を揺らし、淡い藍色の光の粒子を全身にまとって歌い、舞い踊る雫の姿。
それは、いつもの彼女とはまるで違う、息を呑むほどに神聖で、神々しい、本物の “雨の神様” の姿そのものだった。何故か、少し悲しそうな顔をしているが、それさえ、彼女の儚さを引き立てていた。
目隠しの奥にある六眼には、彼女から放たれた莫大な何かの力が、僕たちの足元を伝って、日本列島の遥か南——沖縄の空へと向かって濁流のように一気に流れ込んでいくのが見えていた。
顕現を南北2回に分けるっていう、四季庁のスケジュール。ここから沖縄まで雨を飛ばすなんて、どれだけの負担がかかるかとハラハラしていたけれど、あはは、心配して損しちゃったな。
『ふぅ……』と愛らしく扇を閉じ、すっきりとした顔で息を吐き出した雫は、さっきまでの姿が嘘みたいに、元気な顔をして僕たちを振り返った。
本当に……底が知れない。そして——。
光の残滓を浴びながら、微笑む彼女を見つめる僕の胸の奥で、昨日から渦巻いていたドス黒い独占欲が、また一段と強く、深く脈動を上げたのが分かった。
この神聖で、誰よりも美しい僕の “雨の神様” を、やっぱり誰にも渡したくない。
上層部の老いぼれたちの好きになんて絶対にさせないし、皐月サンにだって見せたくないくらいだ。
この美しい舞も、元気になって咲いたひだまりみたいな笑顔も、僕だけの特権にしておきたい。
「お疲れ様、雫。……すっごく、綺麗だったよ」
僕は一歩近づき、微笑みながら、彼女の頭を優しく何度もぽんぽんと撫で回した。