第13章 五月雨
先生の大きな歩幅に揺られ、私たちは驚くほどの速さで山道を上っていった。
辿り着いたのは——あの、夕暮れの闇の中で、夏油さんと再会した、あの崖の上の開けた場所だった。
「はい、到着。お疲れ様、雫」
『五条先生、ありがとうございました!』
先生が優しく私を地面へと降ろしてくれる。
大地の底から湧き上がる莫大な霊脈のエネルギーが、私の身体へとまっすぐに伝わってくるのが分かった。
私は着物の袖から、顕現の儀式に使う、白藍色の扇を取り出した。
ふぅ、と小さく深く息を吐き出し、胸の奥の呼吸を静かに整える。
静まり返る、緑の裏山。
見守る五条先生と皐月さんの視線を背中に浴びながら、私は扇を目の前に掲げる。
——今回の顕現は “風伝い” の遠隔儀式で、日本列島を南北の2回に分けて行うことになった。
今日はその1回目。ちなみに今回の範囲には、私たちが今いる東京は含まれていない。
南北に分けると言うことは、ここから一番遠い沖縄をはじめとする南の地域まで梅雨の恵みを届けないといけないため、私は身体の奥底から大量の神通力を引き出して、歌と舞を世界へと捧げた。
『—— しん、と世界に霧が立ち ・*: 。.:* ・』
私が歌い出し、扇をひるがえした瞬間、私の身体を淡い藍色の神秘的な光がふわりと包み込んだ。
『花の盛りを惜しむ間もなく雲は垂れ
青葉を育む 大地のなかで . .*・ 。』
その光は、遥か南の空へとまっすぐに溶けていく。
それと同時に、私を内側から激しく蝕んでいた重苦しい “神通力” が一気に、軽くなっていくのが分かった。
『我が流す涙の雫は短き慈雨
音も無き夜よ ひそかに溶けて・:*・: 』
大量の神通力を使ったお陰で、じっとりとした息苦しさも、氷のようだった指先の冷たさも、すべてが嘘のように消え去っていき、今までの重苦しさが嘘みたいに、楽になった。
『あはれ 雲居の底に果ててゆけ '・: * :・ 。 』
パチン、と美しい音を立てて扇を閉じ、そっと息を吐き出す。
——みんなのおかげで、私はまず、1回目の顕現を無事、成功させることができた。