第12章 液雨
私は部屋を出て、お風呂へと向かった。
温かいお湯に浸かってじっとりと残っていた身体の熱を洗い流すと、五条先生が買ってくれた、あの部屋着とカーディガンに袖を通す。お風呂から出て、さっぱりとした心地よさを感じながら、再び、医務室へと向かって廊下を歩いていると——。
廊下の向こうから、任務から帰ってきたばかりなのか、少し疲れた顔をした棘くんが歩いてくるのが見えた。
『あっ……! 棘くん……! おかえりなさい!』
私がパッと顔を輝かせて声をかけると、棘くんは一瞬だけ驚いたように丸い目を見開いた。だけど、私の元気そうな洋服姿を見ると、すぐにホッとしたように「しゃけ!」と嬉しそうに目を細めてくれた。
「おにぎり、おかか?」
『ふふ、うん! お風呂に入って、体調もずいぶん良くなったよ』
棘くんは私の歩幅に合わせるようにして、隣にぴたりと寄り添うように立ち、医務室の前まで優しく付き添って歩き始めてくれた。
本当に、棘くんはすごく優しい。
おにぎりの具しか喋れないけれど、私に何かを伝えようとするときは、いつも私の目を見て、私が理解できるようにジェスチャーを交えたり、声音を変えたりして一生懸命に工夫してくれる。
「すじこ、めんたいこ……」
棘くんが何かを伝えようと一生懸命に手を動かしてくれるけれど、私の理解が追いつかず、どうしても上手く伝わらない。すると、棘くんは怒るどころか、優しくクスクスと笑って、自分のポケットからスマートフォンを取り出した。
慣れた手つきで画面に文字を打ち、それを私に見せてくれる。
【今日の任務先は、遠方だったから、お土産を買ったんだ。後であげるね】
『わあ……っ! 私にお土産……!? ありがとう、棘くん……っ!』
文字を通して伝わってきた彼の真っ直ぐな気遣いに、私は胸がいっぱいになった。