第12章 液雨
「……あのさぁ、五条」
ついに、1時間前くらいに戻ってきてデスクでカルテを整理していた硝子さんが、呆れ果てたようにペンをトントンと叩いて口を開いた。
「お前、午後の任務が終わったならさっさと報告書を出しに行きな。いつまでそこに居座るつもり?邪魔だから、さっさと出ていきな。
患者の睡眠の妨げになる」
「えー、いいじゃん硝子。僕と雫は今、すっごく良い雰囲気で——」
「いいわけないだろ。ほら、とっとと立った、立った!」
硝子さんは白衣のポケットからボールペンを武器のように構えると、容赦なく五条先生の背中を押して、ドアの方へと追い出し始めた。
先生は、同期の硝子さんには頭が上がらないのか、「ちぇー」と唇を尖らせながら、先生は後頭部で両手を組んで押し出されていく。
「じゃあね、雫。また夜に様子見に来るから。ちゃんと寝るんだよー」
先生はドアの隙間からひらひらと手を振ると、そのまま廊下へと閉め出されてしまった。
『ふふっ……』
二人のやり取りがおかしくて、私は布団に顔を埋めながら、思わず笑い声を漏らした。
『硝子さん……五条先生を追い出させてしまって、すみません。……でも、ありがとうございました』
私がベッドの上から丁寧にお礼を言うと、硝子さんは、本当に呆れたというように肩をすくめてみせた。