第2章 私にはない絆
——しばらくすると背中に振動を感じた。
そのかすかな震えに、私はゆっくりと瞼を開けた。それとほぼ同時に、今まで身体を包んでいた心地よい揺れが滑らかに収まり、タクシーが静かに停車する。
「名瀬さん、目的地に到着しましたよ」
運転手さんの優しい声に促され、私は深く被ったフードの隙間から、窓の外の景色へと視線を向けた。スラム街と化した「TOKYO CITY」の汚れた街の一角にある、古びたマンション、その場所が、今回の私の目的地だ。
『ありがとうございました。』
短くお礼を告げて料金を支払うと、自動ドアが静かに開く。春の暖かい空気が私の頬を撫でた。
私はフードの端を少しだけ引っ張り、目元を隠すようにして、一歩を踏み出す。背後でパタンとドアが閉まり、タクシーが走り去っていくのを見送りながら、マンションを見上げた。
少し混んでいたこともあり、時刻は待ち合わせ時間ぴったりになってしまった。
足早に進み、彼らの事務所の前へ立ち、チャイムを鳴らす。どんなキャラでいこうか、などと考えていると、「はーい!!」と元気な男の子の声が聞こえてくる。
その声のトーンを聞いて、私はフードの奥で小さく口元を緩めた。なるほど、あちらの出方は「元気系」か。ならば、こちらもそれに合わせるのが一番やりやすいだろう。
よし、今回は明るいキャラでいくか。
そう方針を決めて、パッと表情をビジネス用の笑みに切り替えた瞬間、がちゃりと目の前のドアが開け放たれた。
「お待たせしましたーっ!」
元気よく飛び出してきたのは、人懐っこそうな瞳をキラキラと輝かせた茶髪のポニーテールの男の子だった。