第2章 私にはない絆
ふと気がつくと、時刻は午前8時15分。
『やばっ。』
私は慌てて、部屋を飛び出した。
ここ、ネスト本部からホークアイズの事務所までは、少し時間がかかる。出来れば、早めに着こうと思っていたが、5分前くらいになってしまうかもしれない。
慌ててタクシーを捕まえ乗り込んだ。
行き先を伝え、座席にゆっくりと座り直す。
私としたことが。何をやってんだか。
疲れてるのか?などと思っていると、タクシーの運転手と目が合い、声をかけられた。
「おや、お客さん、名瀬さんじゃないか!いやぁ、びっくりした。顔が見えないくらい目深にフードを被ってるんで、少し身構えちまいましたよ。」
『あはは。驚かせてしまって、すみません。って私のことご存知なんですね。』
「名瀬さんは有名人だからね。知らない人はいないさ。それと私は、娘と孫が名瀬さんのファンでね。名瀬さんの出てるドラマとか雑誌を見せられてたら、私も詳しくなってしまってね。」
「っと、いけねぇ。すみません、話しすぎましたね。つい楽しくなっちまってね。名瀬さん、毎日お疲れでしょう。この時間だけでもゆっくりしていってくださいな。」
『いえいえ、私も楽しかったです。お気遣いありがとうございます。』
私の言葉に運転手さんは嬉しそうに頷くと、静かに前方に目を戻した。
私は窓の外に視線を移し、優しい人だな、と思った。
エンジン音だけが響く心地よい沈黙に身を委ね、少しだけ瞼を閉じる。このまま眠ってしまいそうだと思った時、ふと、他のハウスと深く関わるのは初めてかもしれないと思った。
今まで、他ハウスと絡むことはあまりなかったし、序列上位だからか、海外からの依頼や、事件が発生してから、何年も経っている難事件を担当することが多かったので、他ハウスとの交流は少なかった。
関わっていたハウスも、結成されたばかりのハウスで、私が捜査したりや解決したりする様子を、見学しているといった感じで、話しかけてもオドオドとしていて、まともに話したこともなく、関わったと言っていいのか怪しいくらいのものだ。
それに、私が幼い、ということもあるだろう。ネストの中では私がズルをしているのではという噂もある。たまに嫌がらせをしてくるハウスもごく稀にある。1人で行動していた方がマシなのだ。
そう思考を打ち切り、私はただ心地よい車の揺れに身を委ねた。
