第1章 あの日
──《あなたなんて死んじゃえばいいのに——》
目を閉じると、夢の中の幼い“私”がそう言ったことを思い出す。
『うん、私もそう思うよ』
誰もいない暗闇に向かって、ぽつりと声が漏れた——。
『でもね、それはできないんだ。……私がいないと、みんなが困るから』
自分の言葉が、冷えた自室の空気に虚しく吸い込まれていく。
私はしばらくの間、時計の秒針が刻む無機質な音を聴きながら、暗闇のなかでぼーっと座っていた。悪夢の余韻と、首の痛みが、ゆっくりと現実の感覚へと馴染んでいく。
『……よし。やるか。』
私がやらないと困る人がいる。
私が笑うと誰かが笑顔になる。
少し話すだけで、泣いて喜んでくれる人がいる。
会えて光栄だと、一生の思い出だと、生きる糧になると。
だから私はこうして、この世界のどこかにいるまだ会ったこともない人達のために謎を解き、笑顔を振り撒く。
パサリ、と資料をめくる。
まだ見ぬ誰かの涙を止めるため、私は再び、深夜のデスクへと視線を落とした。