第2章 私にはない絆
「防犯カメラに映らないのは——カメラの死角と、首振りのタイミングを完全に熟知して動いているだけだ。つまり、この現場の地理に一番『慣れている』人間が犯人だ。」
仁さんの目が、正確にあの茶色のコートの男を捉える。
自分が犯人だと見破られたことに気づいた男は、背を向けて脱兎のごとく走り出した。
うわ、逃げ足早っ……
男は捕まるまいと必死で、周囲にいた一般の野次馬たちを乱暴に突き飛ばし、悲鳴が上がる中を猛スピードで逃げていく。
『あぁ……逃げちゃった』
私はそう呟くと、男に押し除けられて地面に倒れ込んでしまった人たちのもとへ慌てて駆け寄った。『大丈夫ですか?』『お怪我はありませんか?』と声をかけて、立ち上がるのを手伝う。
……本当に酷い人。逃げるために無関係の人を押し除けていくなんて。
突き飛ばされた人たちを心配し、犯人の非道さに眉をひそめる。……けれど、その一方で、私の心の中にはごくわずかな『安堵』もあった。
でも……ちょっとだけ、逃げてくれてホッとしたかも。
もちろん、通り魔事件の一刻も早い解決が求められているのは重々承知している。普段の私なら追いかけていたし、逃げられたら悔しい。
けれど、今回の私の目的は、ホークアイズの解決のプロセスや、仁さんたちの個々の性格、連携の取り方を見極めることだ。
もしここで、私が一瞬で犯人を指差して事件が終わってしまったら、彼らの実力を測る機会を潰してしまう。そんなことになったら、サカキに申し訳ない。
「瑠衣、そっちは任せた!」
「了解、回り込む!」
私の心配を余計なものにするように、仁さんと瑠衣さんは一瞬のアイコンタクトだけで綺麗に二手に分かれ、逃げる男を挟み撃ちにするべく、鮮やかな身のこなしで地を蹴った。