第3章 知らぬが花
奈棍は、成恢が率いる韓軍の中でも精鋭部隊に所属する将校であり、本陣の守備長を務める武将だ。
剛勇な風貌に見合うだけの場数を踏んで積み上げた実績による実力は、成恢からの信頼も厚い。
"故に"というべきか――彼は、かつて陣中に連れてこられた、右も左もわからぬシキの教育係も成恢から命じられていた。
こと戦事に関してのシキの働きは認めるに値するが、それ以外が全くのからっきしであり、浮世離れした彼女の面倒を見るのは相当に骨が折れた様子だった。
軍の規律や体裁を教え、当時よりは大分マシになっただろう今でも、あっけらかんと目に余る言動をすることがあるシキには手を焼いている。
世話を焼くのは軍事に関することだけで良いものを。
こうして非番の日に食事に連れ出してくれる程度には、彼はシキを目に掛けてくれていた。
立場上、奈棍には妻子がいる。
聞いた話によれば、授かったのは男児ばかりで、娘はいないらしい。
そのためか、過酷な軍内で己に比較的懐いてくるシキの存在は――まあ、それなりに可愛いのだとか。
それこそ、酒の席ではシキを娘のようにも思っているだの、馬鹿な子ほどかわいいだのと漏らしているそうだ。
もっとも、シキ自身はその手の感情に一切の関心を抱いていなかった。
にべもなく言ってしまえば、全部どうでもいいのである。
だが、奈棍のことはシキもそれなりに好ましく思い、慕っていた。
なにせ成恢以外の人間に興味を持てた試しがないような女だ。
世話役を引き受けてくれたことで成恢の次に身近な存在となった奈棍は、今は亡き師匠と同じように己の面倒を見てくれる頼もしい存在である。
今や成恢に次いで、シキが懐いている男といっても過言ではなかった。