第3章 知らぬが花
「他国から弱小と侮られることは、屈辱だ。だが……事実でもある」
重みのある低い声が、食事処の一角に落ちる。
生まれた国の弱さを嘆いたところで、この戦国時代においては、それすらもが己の弱さに直結する要因でもあった。
元から険しい顔をした奈棍が辛酸を噛み締めるように語れば、より一層厳めしい面持ちとなる。
両頬に残る大きな傷跡が重々しい風格を漂わせる彼の威圧感たるや、並の人間では迂闊に近付くことすらできまい。
彼の一睨みは、鍛え上げられた兵士でさえも背筋を震わせると聞く。
そのせいなのかわからないが、近くに座っていた客の何名かは、そそくさと席を立っていった。
本来ならば、この場のピリついた緊張感で料理の味などわからなくなるところだろう。
だが、シキには一切関係のないことだった。
シキにしてみれば、恐ろしいものなど何ひとつない。
なにせ人の外見など歯牙にもかけたことがないのだ。
――――これも"成恢を除く"という注釈がつくが。
奈棍に懐いているとはいえ、それが贔屓目になっている訳でもない。
本当に、成恢以外の人間にはこれっぽっちの関心も持っていないというだけの話だ。
奈棍がどれだけ厳つい顔で殺気を放っていようと、目の前でもぐもぐと肉を頬張っていようと、見えている景色ににさしたる変化はないも同然だった。
「……と、すまんなシキ。せっかくの非番だというのに、つまらん話をしてしまった」
「いいえー」
軍内でもあるまいし、わざわざ食事処に来てまで肩肘を張った話をするものではないと気付き、奈棍が謝罪する。
シキは匙を動かしながら、呑気な声色で笑って受け流した。