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死毒に彩なす

第3章 知らぬが花



中華は今、『戦国七雄』と呼ばれる時代にある。

国ごとの力の均衡は大きく異なり、本来ならばいつ崩れてもおかしくはない。
先代の王の時代に一気に勢力を拡大した秦。領土が実に中華の半分に及ぶ楚。
これらを『上』とするならば、それ以外の国を『中』に――――そして、七国の中で最も勢力が小さく、軍も弱い韓は『下』に部類される。

韓は弱小国であるが故に、他国から攻め入られる可能性を最も強く秘めている国であった。
また、韓は秦が中華へ打って出る道を塞ぐ形に位置している。
中華を統一するという大望を抱く秦が、まず目を付ける国はどこか――言うまでもない。韓だ。

しかし、韓は同時に趙と魏の両国にとって、秦の進軍を防ぐ盾でもあった。
故に、もし秦が韓を落とすとなれば、趙と魏が大軍を起こし、韓へ援軍を送り込んでくることとなるだろう。

そうしなければ、韓という蓋を抜かれた瞬間、秦の刃は両国の喉元にまで迫ることとなるからだ。


――――といった感じの話を、都の食事処に連れてきてくれた奈棍から聞かされた。

蒸した穀物を木匙で掬いながら「ふーん」と相槌を打ったシキの向かいで、奈棍が串に刺さった一口大の炙り肉を大きな口の中に運ぶ。

「じゃあ、秦に攻められたら韓は滅んじゃうかもしれないんですね」
「……そうあっさりと言う奴があるか、馬鹿者が」

何てことのない声色で――シキの中では事実そうであったのだが――無常なことを言うシキを奈棍がぴしゃりと咎める。

向かい合って座っていたのは幸いだった。
隣同士であったなら確実に拳が頭上に降っていたことだろう。
とはいえ、先天的に痛覚を持たず生まれたシキにとっては、文字通り痛くも痒くもないのだが。

椀から掬った一匙を口に入れるシキの、まるで悪びれていない様子に奈棍は溜息を吐きかけたが、彼女の率直な言葉があながち間違いとは言い切れないからこそ、動かし難い実状を醸造酒と共に飲み下す。
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