第3章 知らぬが花
「食べてくれますか?」
「……研究が終わったらな」
「本当にっ?」
「ああ」
仕方なく頷いてやれば、途端にシキの顔が華やぐように明るくなる。
「……ふふっ」
シキの満足げに浮かぶ笑みを、それ以上直視することが憚られた。
逃げるように顔を背けると、静まり返った地下研究室に、再び深く鋭い薬研の音を響かせ始める。
シキも何も言わず、いつものように成恢の隣で大人しくその姿を眺めることを再開した。
――――成恢が、己にしか向けられぬシキの狂気とも言える愛着すらも、自身の野望を叶えるための糧にしようとしていることなど、彼女が知る由もない。
知らぬが花というものだ。
だが、もし何も知らぬまま成恢の手の上で花の命を散らすことになったとしても――それこそが、シキにとって何よりの幸福であることもまた、成恢には知る由もなかった。