第2章 満ちびく執焉
「次の戦場でも私、がんばって成恢さまの役に立ちますから、好きなだけ使ってくださいね」
成恢に利用されていることも、自分の特異な体質が成恢にとって都合が良いことも、シキは最初からすべてわかっていた。
わかったうえで、嬉々として使われることを望んでいるのだ。
いずれはその身体を切り刻まれ、バラバラにされてしまうことも承知のうえだった。
それでも、成恢の役に立てることの方が、シキにとっては自身の命よりもずっとずっと嬉しくて、大切なことだった。
見ようによっては健気とも取れるのだろう。
だが、成恢にしてみれば――こんなものは、ただの狂気の一環に過ぎなかった。
この世のあらゆる毒を受け付けぬ頑強な体質を持ちながら、成恢という名の毒に自ら浸かり、内側から深く侵食された憐れな女。
同時に成恢にとってこの上なく都合が良く、研究者としての興味が尽きず、決して代用の利かぬ被検体。
薄気味悪く、得体が知れず、厄介で異質で稀少な――成恢にとって、失えない存在。
何事もないかのように無邪気にすり寄ってくるシキに、成恢は今度こそため息をひとつ吐き出し、再び毒煙が昇る壺へと視線を戻した。
毒に冒された異形の将軍と、毒も痛みも知らぬ異端の女。
薄暗い天幕の中には、誰にも踏み込めない奇妙で穏やかな時間が、たなびく死毒と共に緩やかに満ちていた。