第2章 満ちびく執焉
どれほど強力な毒を創り出そうとも、己の隣にいる『不完全な検体』には一切の痛痒を与えられない。
シキの体内に流れる異質な理は、成恢が生命を削って練り上げた猛毒の成分すらも、ただのぬるい空気のように完全に無効化してしまうように出来ている。
成恢の見た目が毒によって変貌したのならば、この女は人の見た目をしているだけに過ぎない人外に等しい。
――――相変わらず、気味の悪い女だ。
心から、そう思う。
しかし、恐怖や警戒を通り越した、研究者としての狂おしい解剖欲が成恢の胸をかすかに突く。
この毒が効かぬのなら、次はどんな毒を試してやろうか。
その柔い皮膚の下を削ぎ落としたら、一体どうなっているのか。
どんな毒物に触れれば、この女は異常をきたすのだろうか。
……否、もうとっくに頭の方は異常はきたしていたな。
なにせ成恢を「可愛い」などと宣う程だ。
もはや手遅れだろう。
それはそれとして、その身の全てを隅々まで暴いてやりたかった。
本当ならば、とっくに解体していてもおかしくないのだが、この女の戦場における価値があまりに高いため、その手を止めているに過ぎない。
成恢の作り出す毒兵器は戦局を一変させる絶大な威力を誇るが、同時に味方の兵をも巻き込む恐れも非常に高い。
毒煙によって視界が遮られることもあれば、自陣を空けて自ら前線へ討って出られないという相応の隙も抱えている。
だが、この女――シキは、その隙を埋めるに値する働きが可能だった。
毒の満ちる死の領域を平然と駆け抜け、敵が呼吸を乱して血反吐を撒く中、一切の躊躇なく急所を切り刻んでいく俊敏な剣術。
先天的に痛みを感じぬ故に傷を恐れず、成恢の差配一つで黒弓隊に合図を送る烽火としても機能する有用性。
単体での力比べや一騎打ちでは他国の豪傑に容易く押し負けるとしても、成恢の毒という環境下と組み合わさった瞬間、この女は他国に真似できぬ唯一無二の毒牙へと変貌する。
いずれはその身を切り刻んで、不可解な肉の理を調べ尽くすつもりでいるが……少なくとも、"まだ"その時ではない――。
ただ、それだけだ。
成恢がこの女を傍に置いておく理由は、己と軍に都合良く使えるからに過ぎない。
――――だのに。