• テキストサイズ

死毒に彩なす

第2章 満ちびく執焉



素っ気ない態度は出会った頃から変わらないが、自分へ向けられる視線すらなくなったという些細な変化は、ちょっぴり寂しくもある。
だが、追い払うことすら諦めてくれたおかげで、こうして堂々と彼の隣に居座れている。
権利を得たも同然だった。

彼からしてみれば許可した覚えなど毛頭ないのだろうが、互いに都合よく利用し合っているのだからお互い様だ。

「あ、完成しそうな感じですか?成恢さま」
「……シキ、近寄るなと言っている」

……何度言っても聞かぬ奴め、と成恢は溜息を呑み込んだ。

成恢の手元にある壺からは、いくつもの毒物を複雑に混ぜ合わせた怪しげな煙が、ゆらゆらと青白く噴き出していた。

吸い込めば当然ひとたまりもない。
此度の毒は、吸入のみならず、目や肌の粘膜に微量が浸み込むだけでも全身の神経を急速に麻痺させ、死に至らしめるものを目指しているそうだ。

当然、調合している本人が一番その影響を受ける。
だからこそ、成恢の姿はかように変わり果ててしまった。
だが、彼は己の容貌が損なわれたことを嘆いたりしない。
ひょっとしたら昔は葛藤があったのかもしれないが、少なくともシキと出会ってからは一度もそんな素振りを見せたことがなかった。

成恢にしてみれば、自身の身体すらもが有益な実験材料の一つに過ぎないのだ。

あらゆる毒物に触れ続けてきた成恢の身体は、毒素に対する相応の耐性を身に着けてきた。
そうして自身の肉体すら実験に捧げ、膨大な命を犠牲にして、より強力な毒兵器を生み出すことを目指している。

その狂気的な毒煙が、卓に肘をつくシキの顔元へとゆるやかに流れていく。

普通の人間であれば、この煙を肌に浴びただけで皮膚が赤く腫れ上がり、視界は激痛とともに閉ざされるだろう。
しかし、シキはパチパチと無邪気に瞬きを繰り返すだけだった。

どころか、近寄るなと言われているにも拘らず、成恢の手元を覗き込もうとしてくる。

その顔をぐいと手の甲で成恢が押しやった。
危険から遠ざけてやったのではなく、単純に邪魔だったからだ。

「ふふ、この毒が完成したら次の戦でお披露目できますね」

成恢は、ちらりと横目でシキを一瞥した。

肌に触れても発疹ひとつ出ず、目に入っても涙の一筋すら流れない。
何の作用も示さず、無邪気にニコニコと笑っている女の異質さは目に鮮やかな程だった。
/ 24ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp