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死毒に彩なす

第3章 知らぬが花


頃合いを見計らって手元に意識を集中させる。

手にした小瓶を覆っていた熱は次第に冷めてきていたが、透かして見た中身の色の変化は、あらかじめ頭の中で描いていた理想の色彩とは異なっていた。
成恢は僅かに目を細め、液面を凝視する。
わずかな時間経過の間に起きた融解が、液体に不自然な濁りを与えていた。

「……反応が急激過ぎたか」

卓上に置いた匙へ落とした数滴の様子を観察しながら、脳内で瞬時に原因を弾き出す。

混合する資材の比率を変えねば、この毒の安定化は到底望めないだろう。
これでは兵器として使い物にならん。

薬草が持つ潜在的な毒性を極限まで高めるには、乾燥させる手順を踏む前に、特定の生物から抽出した油分を煎じた汁に一定期間漬け込み、不純物を排する下処理が必要か。

……一からやり直しだ。

小瓶を机の上に置き、詰めていた息を長く吐き出した。
組み立てた理論と工程を白紙に戻すことに、成恢は躊躇いも失望も見せない。
幾多の失敗と、自身の身体すら犠牲にした過酷な実験の果てに成果を積み上げてきた彼にとって、これもまた理想の死毒へと至る必然の過程でしかないのだ。


その様子を見ていたシキは、成恢の研究が一時中断された頃合いを見止める。

普段は成恢がこちらへ口を開かなければ喋らないよう気を付けているが、どうやら今までの過程が上手く実を結ばなかったようなので、気晴らしも兼ねて話しかけることにした。
元より、成恢の研究室を訪ねてきた理由をまだ彼に話せていなかった。

「……あ、そうだ。お肉、成恢さまにもお土産に持って帰ってきたんですよー」
「俺に?」
「はいっ。お屋敷の人に渡しておいたから、あとで食べてくださいね」

場違いな発言であると同時に思いも寄らぬ言葉だったので、思わず成恢はシキへ顔を向けた。
ずっと視線だけしか寄越されなかったので、今日まともに彼の顔を正面から見られたシキは瞳を輝かせる。

今日一日の労苦が儚く漂う目元の倦怠感が、どこか艶めかしい。
淡い紫に色付く肌と、妖しく迸る血管が彼のどんな表情も神秘的に見せた。


総合的に見れば、今日も可愛い、という結論に至るしかないが。
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