第3章 知らぬが花
シキに味覚がないことを知っているのは、軍の中では成恢だけだった。
何を食べても味がしないという事実を、当のシキ自身が全く気にしていない。
食事の席でも、与えられたものを嫌がることなくニコニコとしながら淡々と食べ進めるので、誰も彼女が味覚不全であることには気付かない。
むしろ、好き嫌いのない人間だと思われている節すらある。
動けるだけの栄養が摂れればいいというのがシキの食事に対する考え方だった。
これに関しては成恢の考えも似たり寄ったりだったので、それはそうだとしか思えなかったが。
食事に余計な時間や手間を掛けるくらいならば、その分を研究へ回した方がいい。
味覚が完全に失われているシキと違い、味覚は正常の範囲内に収まっている成恢でさえ、こう思うのだ。
美食に執着するほど食に興味などある訳もない。
だからこそ、シキが肉の味を分からぬまま平然と食べていることについても、成恢にとっては「そういうものか」としか思わない。
シキ自身が公言するつもりもないのなら、成恢も敢えて口外するつもりはない。
ただ、それだけの話だった。
シキが味覚不全であることを知らぬ奈棍が良かれと思って美味い肉を食わせてやったのだと思えば、多少気の毒ではあるが。
だが――知らぬが花というものだ。
「……そうか」
それ以上、成恢は何も言わなかった。