第3章 知らぬが花
成恢の毒兵器開発を重んじているのは、この女も同じということだ。
諸々が空っぽな女であったが、馬鹿ではないから都合が良い。
研究の邪魔さえしなければ、後はどうしていようと放っておけばよかった。
害がない限り、好きにさせておく方が余計な手間も掛からない。
結局のところ、成恢はシキの存在を許容してやっていた。
「……一応聞いておくが、何か用があるのか?」
熱した瓶の中身が冷めるまで次の工程には進めなくなったところで、成恢が口を開いた。
他愛もない問いかけだ。
返って来る答えの見当はついている。
用があるとすれば、精々「成恢さまの顔が見たかったから」だのという下らぬ理由だろう。
尋ねられたシキは、ぱっと顔を上げた。
成恢と共にいたいからといって作業中、無暗にお喋りをしては彼の邪魔になることをシキはわかっていた。
故に、この部屋にいる間は、来た時と成恢の実験が終わった後でなければ、滅多に自分から口を開かぬようにしている。
成恢の方から喋りかけてきたということは、今だけ彼と話す許可をもらったのだと――こういう時だけは正しく判断できた。
「はいっ。今日は奈棍の旦那さまと、ご飯を食べに行ってきたんです」
「……奈棍と?」
成恢の視線がわずかにシキへ向く。
……非番の日まで、あの男はこいつの面倒を見ているのか。
それは何とも殊勝なことだ。
初めこそ、戦場には到底似つかわしくない、少女めいた外見をしたシキと接することに戸惑っていたようだったが……否、それも随分と前のことだったなと思い直した。
何だかんだで、成恢が命じた世話役を律儀に務め続けているのか。
責任感を重んじる、あの男らしい。
だからこそ、本陣守備長としての実力と戦歴の成り立ちは、成恢も信頼を寄せるに値するのだが。
軍内でのシキの世話の大半は奈棍に任せきりにしていたのだから、己が与り知らなくて当然といえば当然だった。