第3章 知らぬが花
シキは、今もこうして我が物顔で成恢の隣に座っている。
何が楽しいのかは知らぬことだが――否、以前「真剣に毒と向き合ってる成恢さまが綺麗だから」などと道理が通っていないだろう戯言を宣っていたか。
どのみち、成恢には理解の及ばぬ理由だった。
薄紫色に変色し、爛れた皮膚。
どす黒く浮いた血管に塗れた異形の顔面に、凄絶な執念を纏う己のどこが「綺麗」なものか。
新たな毒薬を作るために草や生薬をすり潰し、乾燥させ、机に並ぶ薬研を一つ、また一つと増やしながら一心に調合を繰り返す成恢の姿を、シキは飽きることなく眺め続ける。
ときに時間が経つのも忘れて没頭する成恢と同じだけ、成恢の研究を――否、成恢自身を見つめているのだ。
「…………」
すり潰した粉末状の草と薬品を細い小瓶へと手際よく投入すると、指先で瓶の口を塞ぎ、規則的な振動を加える。
濁った液体の中で異なる色彩がゆらゆらと混ざり合い、沈殿していた粉末が溶け込んでいく様子を、成恢は鋭い眼光で見つめた。
しばらくして立ち昇る煙の匂いの変化と色の混ざり具合を見極めると、今度は小瓶の底を小さな燭台の火へ近付け、じわじわと熱を加えていく。
火に炙られた小瓶の底から小さな気泡が湧き立ち、やがて液体の色が変色していく行程を、成恢は片時も目を離さず観察し続けていた。
わぁ、というような吐息交じりの小さな感嘆が横から聞こえてきた。
ちらりと一瞥をくれてやると、成恢の手元を眺めるシキの丸まった瞳がわずかに瞠られていた。
たった一言でも身体の不調を訴えでもしたら、それを理由に二度とこの場へ立ち入ることを禁ずることが出来るというのに。
こちらが何もしなければ、特に何も仕掛けてはこない。
戦であれば、それが好機にも異変にも捉えることが出来るが、シキの場合はどうとも捉えられなかった。
何を考えているのかわからない分、行動原理の構造がある程度解明されている野生動物の方が、まだ分かり易いとも言える。
だが、成恢も毒が効かないシキの性質を逆手に取って、素手では触れられぬ毒草や生物を持ってこさせたり、器材の後片付けに利用することはあった。
作業そのものには余計な手出しを許さなかったが、シキも成恢から命じられない限り手を出すつもりはないらしい。
存外、極めて大人しくしているのだ。
基本的に成恢が口を開かない限り、小煩く囀ることもない。
