第6章 雑用係
その人のあるべき場所へと戻るためには、強く故郷のことを念じなければいけない――。
つまり元の世界を忘れてしまったら、私はきっと帰るための道しるべを失ってしまう。
だから、塗り替えられる認識は、文字だけで精一杯なのだ。
情報量に耐えきれず、パンクした脳が物理的にパーンとなってしまうだとか、精神汚染に侵されるだとか。
そういった類の悪影響を語られるより、ずっとずっと怖い――と、そう思った。
元の世界の記憶が、私にとってどれだけ大切なものかを改めて再認識した心地で、「……はい」と神妙に頷いた。
ちなみに異世界人だとバレては厄介――学園長先生は最初『面倒』と言い間違えていた――なので、くれぐれも内緒にしておくようにと、こっそり耳打ちもされた。
その配慮のおかげで、私は『魔力ナシで、この年齢まで識字すら持ち合わせていなかったヘナチョコな人間』としてグリムちゃんにインプットされることとなったのだけれど、私の印象がちょっとおかしくなるくらいで済んだのは幸いの範囲内なのだろう。
無事に誤魔化せてよかった。
危ないところだったわねー。
「それに貴方もまだ学生の身でしょう。学生の本分は学習です。文字が読めるようになったのなら、自分でこの世界のことを勉強するよう努力しなさい」
「はい、わかりましたー。色々とありがとうございます、学園長先生」
今夜だけで何度思ったかわからない。
魔法って、本当に偉大なのねー。
識字を授けてもらうために触れられた額をさすりながら、感嘆する。