第6章 雑用係
仕切り直しで、別の文字が再び宙に浮かぶ。
金の光が滑らかに描いた細い曲線たちを見ると、そこには『ナイトレイブンカレッジ』と、そう書いてあることがわかった。
「『ナイトレイブンカレッジ』……すごい、ちゃんと読めたわーっ」
「ええ、そうでしょうとも。私、優しいので」
曰く、私の情報認識を操作して、文字を理解するよう脳に働きかける魔法を使ったんだって。
簡単な語調で言ったわりには、とても高度な魔法をあっという間に掛けられてしまったことが、魔法素人の私にもわかった。
私も腕の中のグリムちゃんも「ほぇー」とポカンとしている。可愛い。
どうせなら、いっそこの世界の一般常識なんかも記憶させてほしかったけれど、残念ながらそれは出来ないらしい。
というのも、文字の他に地理や歴史、文化や作法、専門的な知識等を詰め込んでしまったら脳が容量オーバーになって身が持たないらしい。
特に私のように魔法のない世界から来た――魔力そのものに馴染みのない――人間の脳に魔法を使用するのは、あらゆるリスクが伴うのだとか。
具体的な悪影響の事例は割愛されたけれど、異世界人の魔法耐性が如何程のものかは学園長先生にとっても未知の領域だと言われた。
私に魔力がないことは既に入学会式で周知済みだけれど、異世界から来たことまでは知らないグリムちゃんがいる手前、そういった部分だけを言い換えながら説明してくれた学園長先生。
ただ、一つだけ。
私にとっての最悪の危険性だけは、はっきりと告げられた。
それは、元の世界を忘れてしまうかもしれない――という可能性だった。
この魔法は情報認識を塗り替える魔法と酷似しているとのことで、もし使い過ぎたら元の世界のことを忘れてしまうかもしれないらしい。
――――『さあ、扉の中へ。強く故郷のことを念じて……』
入学式の後の鏡の間で、棺の中に入った際に言われた学園長先生の言葉が蘇る。