第6章 雑用係
「その、学園長先生。私、文字が読めないです……」
「なんですって?」
「なんだ、オマエ?文字も読めねーのか?」
とことんヘナチョコなヤツなんだゾ、とグリムちゃんが少馬鹿にしてくるけれど、こればっかりはどうしようもない。
何せここは異世界。
慣れ親しんだ漢字も、ひらがなも、カタカナも扱われていないのだから、せっかく図書室の利用を許可してもらっても意味がないのだ。
それこそ、小さい子向けの読み書き用のワークブックを活用するところか始めないといけないレベルである。
ちなみにグリムちゃんは文字の読み書きは出来るのかと問いかけてみたら、意外にもイエスの返事が寄越された。
といっても、簡単な単語くらいらしいけれど、何も知らない私に比べれば遥かにマシだ。
なのに言葉は通じるんだから不思議ねー。
このあたりは、魔法の力が働いていたりして。
学園長先生は、文字さえ読めないと言った私に対して仮面越しでも怪訝な表情がわかる顔をした。
が、私が異世界から来たことを前提に考えると無理もないと思い直してくれたのか、目の部分の金色の光をゆるりと細める。
「…………わかりました。それでは、これは特別ですよ」
一歩こちらへ歩み寄った学園長先生が、自身の片手を持ち上げる。そうして私の額に指先をトン、と当てたかと思うと、途端に頭の中が光に包まれたような、鮮明なあたたかさを帯びた。
何が起きたのかイマイチ理解ができない。
瞬きを繰り返していると、次いで学園長先生が空中をなぞるようにして指先を動かした。
すると、たちまち光が軌道を描き、文字が浮かび上がったのだ。
金糸で綴られたような文字の端から光の粒子がサラサラと細やかに零れ落ちていく。
わあ、綺麗ねー。これもきっと魔法なのだろう。
「いいですか、これは何と読みますか?」
「『ディア・クロウリー』って書いてあるんだゾ!」
「貴方に聞いたんじゃないんですよ!……こほん。えー、ではこれは何と読みますか?」
学園長先生が書いた文字の認識を私に向かって確認したはずが、ついつい先にグリムちゃんが答えてしまった。