第6章 雑用係
終わってみれば、あっという間の出来事だった。
ついさっきまで火の海だった廊下が、湿った雨音だけを残して暗がりに沈むまでの一連の流れをグリムちゃんと一緒に、すっかり見入ってしまっていた。
「ふなぁ……!?オレ様の火が全部消えちまったんだゾ……!」
「……すごい」
火事を起こした痕跡が何も残っていない。最初に訪れた時と何ら変わりない寮の廊下を、新たに火を燈したランプで照らしながら「これでよし、と」と、学園長先生が一息吐いた。
「簡単な修復魔法ですよ。今回の騒動で生じた損傷については、これで元通りです」
「すごいです、学園長先生……っ!ありがとうございます!魔法って、こんなことも出来るのねーっ」
「今回だけの特別大サービスですよ。なにせ私、優しいので」
人差し指の先をくるくると回しながら、得意げに微笑む学園長先生。
学園長先生の言った通り、寮全体が真新しく綺麗になった訳ではないらしい。
あくまでも修復されたのは、燃えた廊下だけだ。
壁は相変わらず古びているし、所々剥がれかけた漆喰も壁紙も、そっくりそのままだった。
床板も、いつ踏み抜いてもおかしくないくらい年季が入ったままで、柱には長い年月を経た傷や染みが当然のように残っている。
本当に、今回の私たちの戦闘によって生まれた焼け跡や破損だけが綺麗さっぱり消えているだけだ。
だとしても、これがどれほど素晴らしい所業なのかは一目瞭然。
まして魔法のない世界から来た私にとっては、これこそが『魔法』の神髄。それを見たも同然だった。
これが"簡単"なレベルに値する魔法なら、もっともっとスゴイことだって出来てしまえるのだろう。
それこそ、寮自体を真新しい状態に戻してしまうだとか。
ああ、本当にすごい。
改めて、魔法って便利ねー。
それに私たちの不祥事を厚意で元通りに直してくれた学園長先生は、どこまでも優しい人だった。
もう足を向けて寝られないわねー。
すごいすごい、人格者、流石です、嬉しいわーと、私が目を輝かせて学園長先生を心から賛美していると、学園長先生のお口がニッコリと綺麗な弧を象っていく。
そうでしょう、そうでしょうと気持ち良さそうに何度も頷いた後、ひとしきり満足した様子で自身の顎に優雅に指を掛ける。