第6章 雑用係
とはいえ、グリムちゃんもツナ缶を諦めた訳ではないらしい。
余計なことは言わずにぐっと口を綴んでいるのが証拠だ。
不満げながらも大人しく沈黙しているのは、グリムちゃんなりにかなり譲歩してくれた結果だったに違いない。……ちゃんと我慢してくれたグリムちゃんは偉い。
一緒になって頭を下げる私たち――という風に見えたら幸いだ――を、しばし見下ろしていた学園長先生は、やがて長い溜息を吐き出した。
「……やれやれ。仕方がありませんね。これ以上、火事を放置している訳にもいきませんし、今回だけ特別ですよ」
その言葉を聞いて、ぱっと顔を上げる。
私たちの謝罪を百歩も二百歩も譲って、仕方なく受け入れてくれたらしい学園長先生が、"今回だけ特別"の部分を強調しながら片手を翳した。
優雅に伸ばされた指の先。
砂金をさらに細かく砕いたような煌めきが、ふわりとしたそよぎと共に虚空に生まれる。
学園長先生の翳した手が横に振るわれると、周囲に立ち込めた熱気が瞬く間に薄れていった。
燃え盛っていた青い炎も、弾けていた火の粉も、煙と一緒に舞い上がっていた煤も、全部みるみるうちに消えていく。
「「…………」」
何が起きたのかわからなくてグリムちゃんとポカンとしていれば、視界の端がキラリと光った気がして目を向ける。
すると、壁に走っていた黒い焼け跡が淡い光の粒へと変わりながら刹那に薄れていき、最後には光と共に跡形もなく消えてしまった。
炎の熱で裂けていた木材も元の形へ戻り、剥がれ落ちていた漆喰が壁へと収まっていく。
床に空いていた穴の縁から、崩れていた木片がフワリと浮かび上がった。
かと思えば、火に炙られて落下していた額縁と一緒に、あるべき場所へ吸い寄せられていく。
バラバラに散らばっていたパズルのピースが自分から嵌りにいっているみたいだった。
一つ一つの所業が、星屑みたいな光の粒子を零しながら、泳ぐような滑らかさで進められていくから目が離せない。
ひび割れた箇所は繋がり、煤けた表面が元の色を取り戻し、焼け落ちた部分なんて最初から一つもなかったみたいに――――まるで時間が巻き戻ったみたいに、全てが元に戻っていた。