第6章 雑用係
「ふな゛ぁ~~!やめろー!オレ様の自慢の毛並みがもっとボサボサになっちまうだろーが!」
「ふふふっ、ごめんね。じゃあ、ちゃんと整えてあげるからジッとしてー」
「やるなら最初からやるんだゾ!」
無遠慮に撫で繰り回す私にグリムちゃんがひっくり返ってジタジタともがくけれど、疲れきった身体では随分抵抗力に欠けているし、何よりも熱を帯びた肉球がぷにぷにだった。
火を吐いて脅そうとしたらしい口からは、燃え損なった白煙がケホリと一つ吐き出されて終わったので、どうやら本当にエネルギー切れらしい。
本当に頑張ったね、グリムちゃん。
「なんと……まさかモンスターを従わせることが出来る人がいるなんて」
変身薬とやらの効果が切れたのか、いつの間にか人間の姿に戻っていた学園長先生が現れた。
驚きと感心を織り込んだ声色で、しげしげと私とグリムちゃんを見つめる学園長先生。ふいに「それにしても」と声のトーンを落とした。
「ずいぶんと派手にやってくれましたねえ」
やけに間延びした物言いで、ぐるりと周囲を仰ぎ見る学園長先生。
それはもちろん、先程の試練で学園長先生を丸焼けにすべく全力を尽くしたことへの遠回しな賛美ではなく、火の海と化している廊下の現状を指しての言葉だった。
煌々と燃える廊下を一望すれば、自ずと先程までの高揚感がゆっくり潜んでいく。
皆まで言わずとも学園長先生の心中はお察し出来た。
……この後に続くであろう言葉も。
気まずい心地で「あらー……」と呟くと、ゴホンという大袈裟な咳払いが頭の上に降ってきた。
「……ところで、ユウさん。貴方、一体この状況をどうするつもりなんですか?」
「そうですねー……。…………どうしましょうー?」
一言、一言を区切るような問い方だった。
対する私は苦笑しながら片腕にグリムちゃんを抱き、もう片方の手を頬に当てて首を傾げて返す。
入り込んでくる雨風程度では、この被害はすぐに抑えきれないだろう。
少しずつ鎮火はされているけれど、所詮は微々たるものだ。
一応周囲に目を配ってみても、消火器らしきものも見当たらない。
仮に消火できたとして、ただでさえ古くてボロボロだった廊下の燃え尽きた"跡"は想像に難くなかった。