第5章 試練
このまま出鱈目な指示を続ければ、かろうじて成り立っていた共同戦線が完全に崩れ去るのは目に見えている。
そうなれば、鏡の間での大暴れが再現されてしまうことだろう。
もしこの寮が今度こそ火の海になってしまったら……と、最悪の展開を想像しかけた頭の中で、ふと。
――――鏡の間で見た光景が、断片的にフラッシュバックする。
同時に、今さっき学園長先生が見せた動きが……何かに、重なった気がした。
早くグリムちゃんを宥めなければいけないのに、記憶のリフレインに意識が向かう。
さっき学園長先生の動きが一瞬だけ止まった。
グリムちゃんの炎が壁になって、それ以上先へ行けなかったからだ。
それとよく似た光景を、見たことがある気がしてならなかった。
そう、あれは――――鏡の間で。
「――!そうだわ、あの時……!」
炎を撒き散らしながら鏡の間を逃げ回っていたグリムちゃんを二人の生徒さんが捕まえしようとしていた、あの時の一連の流れ。
ちょこまかと逃げ回るグリムちゃんのすばしっこさ。
隠れ蓑にも、行く手を阻む壁にもなっていた青い炎。
何度も放たれた二人の魔法は、けれど、なかなかグリムちゃんには当たらなかった。
代わりに彼らの魔法は、グリムちゃんの周囲にあった炎を一つ、また一つと消していった。
最初は、単純に狙いが外れているだけなのだと思っていた。
けれど、実は違う。
あの二人は、最初からグリムちゃん自身を狙っていた訳じゃなかった。
本当の狙いは、魔法の相殺による鏡の間の鎮火――ひいては、確実に自分たちの障害を取り除きながら、グリムちゃんを逃げも隠れも出来なくさせることだったのだ。
グリムちゃんを追い詰めていたのは、二人の魔法そのものじゃない。
二人が作り上げた"逃げ道のない状況"だったのだ。
……だったら。
「あの時と"逆"のことをすればいいんだわ……っ」
「おい、オマエ!なにボーっとしてるんだゾ!早く合図しろー!」
「……グリムちゃん、前の廊下に向かって炎を思いっきり出してー!」
学園長先生を追いかける必要なんてない。
どこへ逃げるのかを予測する必要もない。
あの速さを目で追えないのなら――追わなければいい。