第5章 試練
『……やりますね。では、もう少し難易度を上げるとしましょう』
シルクハットとマントの一部をちょっぴり焦がしながら炎から逃げ延び、壁に吸い込まれるようにして消えた学園長先生が、少しして床から顔だけを覗かせた状態で現れる。
"難易度を上げる"とはどういうことかと首を傾げる間もなく、学園長先生はさっきまでのふよふよと波間を漂うような動作から一転した動きを見せた。
それはまさしく電光石火。
白い影が、目で追う間もなく次々と現れては消えていく。
右へ左へとグリムちゃんの周囲を素早く通り過ぎては消えてを繰り返す動作は、翻弄に他ならなかった。
これじゃあ、グリムちゃんが目を回しちゃうわ。
思わず危惧したけれど……どうやら、それは杞憂だったようだ。
視線を向けた先で、グリムちゃんは尻尾をゆらゆらと揺らしながらフフンと笑んでいる。
それは、この試練が好調の出だしだったからこその余裕であり――――私にとっては、私の指示を信頼してくれてるからこその得意気なのかと期待してしまうような姿だったから……つい私も笑みが零れてしまった。
『さあ、私の動きを捉えることができますか?』
「グリム様にかかれば簡単なんだゾ!」
「あらー。グリムちゃんと私にかかれば、でしょう?」
「ふなっ?」
一緒に頑張りましょうねということを言いたったのだけれど、グリムちゃんはイマイチわかってくれてなくて、怪訝そうに首を傾げながら顰めっ面を向けてきた。あらー。
……調子に乗っているのは、私の方だったのかもしれない。
少し残念に思いながら目を伏せて苦笑していたところで「ふなぁ!?」というグリムちゃんの悲鳴が聞こえ、ハッとする。
見れば、飛ぶスピードを格段に上げた学園長先生が『ほらほら、さっきまでの余裕はどうしたんです?』と大人げない口振りで、グリムちゃんの周囲を高速で飛び回っていた。
それをグリムちゃんがわたわたと慌てながら、顔周りの羽虫を必死で払うような大袈裟な身振りで抵抗していた。
「お、落ち着いてグリムちゃんっ。……あそこ!奥にいるわーっ!」
「こっちだな!」
「――あ、ま、待って横!ああっ、いま通り過ぎていったわよー!」
「ふな゛っ!?今度は後ろぉ!?」
学園長先生は、まるで瞬間移動のように私たちの周囲を縦横無尽に飛び回っている。