第5章 試練
ごくり、と喉が上下した数秒後――私は、我が目を疑うこととなる。
学園長先生の身体が淡く光り始めたかと思うと、だんだん蜃気楼みたいに輪郭がぼやけていったのだ。
そうし、程なくして目の前にいたはずの学園長先生の姿が、ふっと掻き消えた。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
けれど、驚いて瞬きを繰り返す私の視界の中央には、確かに何かが浮かんでいる。
白くて、半透明で、顔には見覚えのある黒い仮面をつけたゴースト。
まさか……。
「が、学園長先生……?」
『ええ、その通りですよ。どうです?見事なものでしょう?』
言っておきますけど、決して死んだわけではありませんからねと念押しされる。
どうやら本当に目の前のゴーストは、学園長先生ご本人らしい。
先程私たちを取り囲んでいたゴーストたちとほとんど同じフォルムの幽体。足元は煙のようにふわりと霞み、床に触れることなく宙に浮かんでいる。
その白く透けた身体が、ゆらりゆらりと上下していた。
この世界に魔法が存在すること自体は受け入れたし、もう何度も目の当たりにしてきた。
グリムちゃんの口から吐く青い炎だって魔法の一種らしいし、鏡の間では何もない空間から首輪が現れた。
科学で証明できない現象だけを『魔法』と思い込んでいたけれど……考えてみれば、魔法そのものだけでなく、魔法や魔力を媒介にしたアイテムや、それらを扱う技術だって当然実在するはずだ。
だから人間をゴーストに変えてしまう薬があったって、何も不思議じゃないのだろう。
そう考えれば、目の前で起きた現象にも素直に合点がいく。
わあ、と感嘆しながら頬の横で手を合わせていると、学園長先生はゆったり宙を漂いながら私たちの前まで移動し、その場でくるりと回転してみせてくれた。
まるでダンスみたいな動きねー。
くるりと回るたびにマントが翻る様子は、どこか優雅ですらあった。
魔法の薬の効果に感動している私の反応は、学園長先生の自己顕示欲を心地良く擽ったらしい。
変身後の動作の確認と称して、さりげなくポーズを決める学園長先生のゴースト姿に「ホントにすごいわーっ」とパチパチ拍手をすると、学園長先生が『いやですねぇ、それほどでも』と謙遜する口振りに反して語尾の音符を躍らせていた。