第5章 試練
どうしようかと学園長先生を見上げれば、暴れるグリムちゃんを意にも介さない落ち着きっぷりで腕を組んでいる。
そして、自身が提案したゴースト退治の問題点――肝心のゴーストがいないことに関して、目から鱗な解答を口にした。
「ゴースト役は私がします」
言っている意味が咀嚼しきれなくて、私とグリムちゃんはスリーテンポほど遅れてピタリと止まった。
ここにはいないゴースト役を、学園長先生がする……?
ということは、つまり……。
「学園長先生、そんな……グリムちゃんのツナ缶のために、そんなことまでしてくれるなんて……」
「少々確かめたいこともありますし、これくらいならお安い御用ですよ。私に勝てたらツナ缶を差し上げましょう。私、優しいので」
「学園長先生……っ。……わかりました。なら全部が無事に終わったら、どうか安らかに成仏してくださいねー」
「死にませんよ!?」
お腹を空かせた野良モンスターことグリムちゃんのために、その身を犠牲にすることを選んでくれた学園長先生こそ、まさしく『優しい』の体現者。
晴れてグリムちゃんがゴーストとなった学園長先生を退治した暁には、成仏して天国で私たちを見守ってくれることを願っていることを伝えれば、そういう意味じゃないと渾身の否定を返されたので、首を傾げてしまう。
「あらー、違うんです?」
「全っっ然、違いますからね!私まだ死にませんから!」
思わず目を丸くさせて問えば、力強く断言された。
長生きするつもりがあるのは良いことねー。
私、てっきりグリムちゃんのツナ缶のために自らの命を絶ってしまうものとばかり……。
……あらー?
だったら、どうやってゴーストになるのかしらー?
ゴースト"役"という名目で生身のままグリムちゃんと対峙するのかと思いきや、学園長先生はその疑問こそ待っていましたとばかりに懐から小瓶を取り出してみせた。
透明な硝子瓶の中で、不思議な色をした液体がトプンと軽く波打つ。
一体あれは何だろうとグリムちゃんと見上げていれば、仮面の目元で光る金色に弧を描いた学園長先生が瓶のコルクに指を掛けた。
きゅぽんっ、と耳障りの良い音を立てて開けた瓶を口元に傾け、そして。
「――――では、変身薬をごっくん!!」
躊躇いもなく、その中身を一気に飲み干してしまった。