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鏡の世界の×××

第1章 出会い


人語を喋り、炎を吐く狸に追いかけられるだなんて、とっても妙ちきりんな夢。
非現実的なのに一つ一つの感触も脈打つ胸の鼓動も、全部が現実みたいに身体中に浸透している。
だから危機感のせり上がりも迫真のものとなって、私を駆り立てていた。

ここがどこかもわからないまま部屋を飛び出した私は、長い廊下を懸命に駆け抜ける。
バルコニーに出ては行き止まりだと急いで引き返し、目についた部屋に押し入ったものの身を隠せそうな場所を見つけられずにすぐに飛び出した。
後ろから追いかけてくる狸ちゃんの「待て~~!待つんだゾ~~!」という炎を交えての声は、一向に遠ざからない。
むしろ一定の距離を保っているくらいだった。

元々運動が得意じゃないせいで、全然距離を離せない。走るのだって、本当はもう止めたいくらいには体力もすり減っていた。
でも、狸ちゃんに追い付かれては丸焼けにされてしまう。
それだけは嫌だという一心で、脚を動かしていた。


がむしゃらに走った先で見つけた、下へと続く階段。
三段飛ばしくらいで駆け下りていった先で、両開きの大きな扉を見つけた。

古めかしくて厳かな装飾が施された、立派なお屋敷のそれみたいな扉だ。
無作法だけれど、今はドアノブに手を掛ける手間さえ惜しかった。扉の表面に掌を突くようにして、走った勢いを乗せて扉を思いきり押しやれば、重たげな音を立てながらも開いてくれた。

ああ、よかった……!よくあるホラー映画的な展開なら、こういうのは絶対に開かないのがお約束だったから……!

ここから出られるという安堵も相まって、扉の向こうへと一気に飛び出す。どうやら外へと通じる扉だったらしい。
大きな白亜の階段の先には崖が見えた。
けれども、行き止まりではないらしく、この階段の先にはさらに下へと続く道が見える。
少しでも時間を稼ぐためにすぐさま扉を閉めて、階段を駆け下りていく。
足が縺れて転んだり、うっかり靴が脱げてしまわないよう気を付けながら、なんとか下まで辿り着いたところで階段の上から「待ちやがれーー!」という狸ちゃんの声が飛んできた。

息つく暇もないとはまさにこのことかもしれない。
追いかけることを――ひいては何故か私の服を追いはぎすることを全然諦めてくれない狸ちゃんが四足歩行で階段を半ば飛び降りるみたいに駆け下りてくるので、私は急いで崖の下へと続く斜面へ向かう。
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