第1章 出会い
本当にどういうことなのかしら。
いつの間にこんな棺に入れられて、知らない場所に運ばれてしまっていたのか。誘拐にしては随分と風変りで非現実的だ。
だとすれば、ひょっとしなくてもこれは、夢。
そう、夢……きっと夢、だよね?
「目の前のオレ様を無視するとはいい度胸なんだゾ!このグリム様に目を付けられたのが運の尽き!」
周囲を見回して考え事に耽ってしまっていた私を狸ちゃんが見咎めてくる。
ハッとして狸ちゃんに意識を戻した途端、何故かはわからないけれど、服をよこせと言ってくるので、首を傾げる仕草を返すしかなかった。
なぁに?どういうこと?
困りきった私の行動がノーを示しているように見えたのだろう。
言われた通りにしない私に向かって、狸ちゃんはピンク色の肉球が大変に愛らしいお手手と、爪の先をこちらの鼻先に突き付けてきて「さもなくば……丸焼きだ!」と、あくどい――それでも可愛らしさが勝って見える笑みで告げた。
「そ、そんなっ……そんなことって……!」
あんまりな自体に座ったまま後ずさろうとして、すでに背中に当たっている棺に阻まれる。
上半身を捻って、棺の縁に手を掛けながら腰を浮かせる私の姿は、きっと追い詰められた獲物なのだろう。
狸ちゃんの眼差しが明らかな優越を含んで、愛らしいシニカルな笑みが深まる。
ふっふっふ、と笑いながらじりじりと近付いてくる狸ちゃん。
ああ、そんな……!
「狸に丸焼きにされる夢なんて、斬新すぎる!」
「だから狸じゃねーって言ってるんだゾ!」
両手で顔を覆って叫んだ私に負けず劣らずの声量で叫び返す狸ちゃん。
夢とはいえ、死にたくはない。
これは、きっと現実と寸分違わない感覚を齎す夢だ。
となると、さっきみたいに炎に焼かれてしまったら熱くて痛くて堪らないはずだ。
丸焼けになんてなりたくないので「焼かないでぇ!」と言いながら立ち上がり、急いで駆け出した私を「あっ!おい!待つんだゾ!」と、狸ちゃんが追いかけてくる。