第5章 試練
人を住まわせるにあたって絶対に伝えるべき事柄だったはずなのだけれど、すっかり忘れていたらしい。
そんなに大事な情報なら覚えておいてほしかったわねー……。
それとも、ゴーストが住み着いていることも、無人寮になってしまったことも、この世界――ひいては学園にとっては"そういえば"レベルのことだったりするのかもしれない。
単に学園長先生がうっかりさんだった可能性も否めないけれど。
でも、あのゴーストたち"ゴースト仲間を探してた"って言っていたし、素直に解釈すれば幽世に連れて逝ってやるという意味になるはずだから、疑いようのない命の危険を"そういえば"程度で済まされてしまうのは大分嫌ねー……。
住む場所を提供してくれた恩はあれども、とても肝心な部分を忘れられていたという事実に何とも言えない不満が渦巻きそうになる。
まあ、この寮を見る限り本当に長い間無人だったみたいだし、ついついうっかり忘れてしまうのもやむなしかもしれないと思うことにして、ちぎったパンの一欠片を頬張った。
腰が抜けてしまった私は未だに廊下へ座り込んだままで、グリムちゃんも炎を吐き続けた疲労から、私の膝の上でぐったりと身体を預けている。
そんな状態での食事なので、見栄えやお行儀はあまりよろしくない。
本当なら談話室に戻って頂くべきなのだろうけれど……今は自分で立ち上がる気力も、グリムちゃんを立たせてあげる余裕もなかった。
不可抗ねー。
学園長先生の持ってきてくれた銀色の丸いトレーの上には、湯気の立つスープ。
焼きたて――というには、それなりに時間が経っていそうなパン。
それから、三角形の穴あきチーズと、丸ごとのリンゴが乗っていた。
どうやら夜も遅い時間だったため、食堂に残っていたものを適当に見繕ってきてくれたらしい。
何も食べるものがないと思っていた身としては、パンの一つでも恵んでくれるだけでも十分有難い。
トレーの上の簡素な食事がいっそ贅沢にも見える。