第1章 出会い
黒い毛に覆われた胴体。
縞模様の大きくて古びたリボンが掛けられた首元の白い毛は、ふさふさと豊かな毛量で触り心地がとても良さそう。
耳の部分には、青い炎が揺らめいている。
見覚えのある炎は、今し方まで私が必死に逃れようとしていた炎の色とそっくりだった。
こちらを見つめる、耳の炎と同じ綺麗な青い真ん丸お目目は、生意気そうにつり上がっている。
レッサーパンダの威嚇姿を思わせるポージングで掲げられた肉球の先で、小さくも立派に尖った爪が伸ばされていた。
狸ちゃんが何やら名前らしきものを叫んだようだったけれど、急な展開についていけていない私はそれどころじゃない。
思いきり聞き流してしまった。
目の前の喋る狸ちゃんのことは当然気になるけれど、明らかに自分の部屋とは異なる景観が周囲に広がっていることにも意識が向かう。
私がいる部屋全体が夜の闇に包まれたみたいに暗がりに染まっていて、なんだかとても物々しい。
海を漂うクラゲみたいにあちこちにプカプカ浮かんでいるのは、棺だ。
金細工のレリーフが施された棺の中央には鍵穴らしき形の穴が見える。
等間隔に並ぶ柱。
その先端でモスグリーンの明かりを燈すランタンと共に、棺に埋め込まれた緑色の宝玉の光が部屋の照明として一応機能しているものの、齎しているのは明るさよりもゴーストハウス染みた雰囲気だった。
部屋の天井は高く、見上げれば闇に溶け込むほど巨大なシャンデリアが静かに吊り下がっている。
黒鉄で組み上げられた鎖は植物の枝のように広がり、真珠の珠の連なりにも似た銀のチェーンや水晶の飾りを幾重にも垂らしていた。
花の蕾を思わせる形のランプから漏れる紫色の燈火は淡く綺麗なのに、部屋を包む独特のおどろおどろしさのせいで妖しげに見えてくる。
"不気味"とも"神秘的"とも言えるこの不思議な部屋は、当然ながら自室ではない。
全体を見回すために身体を動かした際、背中に当たった硬い感触に振り返れば、私が今まで入っていたらしき箱が周囲に浮遊している棺と全く同じものだったことに目を丸くさせる。
まるで死んだ人の扱いだ。縁起でもない。
否、そもそもどうしてこんな……私、自分の部屋で寝ていたはずなのに……。
先刻も脳裏を過った疑問が再び頭の中をぐるぐるし始める。