第3章 オンボロ寮
「……?」
足を踏み入れた瞬間、ひやりとした空気を感じる。
隙間風が通り抜けた――というよりは誰かがすぐ傍を通り過ぎたような、文字通り"肌を撫でる"ような……不思議な心地だった。
思わず振り返るも、当然ながら他に誰かがいる訳もない。
……やっぱり気のせいねー、きっと。
壁も窓もボロボロだもの。
夜も更けているし、隙間風が妙に冷たく感じるのも無理はない。
それよりも気になるのは、一歩踏み出すたびに床板がミシ、ミシと音を立てることだ。
やけに床が軋むなぁ、なんて思った矢先――――ひと際大きな音が鳴ったと同時に片足がガクンと沈んだ。
床の一部が抜けたらしい。
中途半端な浮遊感が身を包み、片足を取られて変な体勢を取った拍子に身体が一気に傾いた。
「きゃあッ」と声を上げたのも束の間、衝撃が新たな埃を舞い上げ、咄嗟に思いきり吸い込んだ埃塗れの空気でまた盛大に咽る。
足首を床に食われた状態でへたり込み、驚きと痛みも二の次になる息苦しさに「うぅ」と呻いていると、音を聞きつけて踵を返した学園長先生がランプで私を上から照らしてくれた。
「大丈夫ですか?ここはあまり手入れされていないので、足元にはよく気を付けるように」
「はぁい……げほっ」
転んでしまったせいで、綺麗な式典服もすっかり汚れてしまったようだった。
埃にやられて滲む視界を拭おうとして片手を持ち上げると、灰色に汚れた長い袖が目についた。
せっかくの格式高くて綺麗な召し物も、こうなっては台無しだ。
替えの服すら持っていないから、当分はこの格好をしていないといけないのかしらー……。
先が思いやられるわねぇ。
いつまた床を踏み抜いてもおかしくなかった廊下をなんとか慎重に渡り切って、辿り着いた広い一室。
学園長先生曰く、昔は談話室として活用されていたらしい、お部屋なんだって。
暗くてよく見えないはずなのに、このお部屋もボロボロに荒れ果てていることは一目瞭然に等しかった。
どうして机や椅子がひっくり返っているのかしらー。