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鏡の世界の×××

第3章 オンボロ寮



果ては、靴の片方でもいいとさえ言われてしまっても、私にあるのはこの身一つ。
学園長先生の言う通り、そして見た通り、手ぶらそのものだ。

「お財布もスマホも持ってないです……。困りました……」
「困りましたねぇ」
「どうしましょうー……?」

途方に暮れる私の前で、自身の顎に手を掛けている学園長先生。

考える素振りこそ見せているけれど、告げられる言葉といえば「魔法を使えない者はこの学園に置いておけない」という無常なもの。

今着ているこの式典服だって、そもそも入学の資格もないのだから返上しなくてはいけないだろう。

身包みを剥がされ、家族にも会えず、家にも帰れず、文字も読めないような知らない世界でたった一人、孤独に生きていくしかないのだろうか。
全く自信がないわー……。
木枯らしに吹き晒されて、身も心も萎れていく自分の憐れな姿が簡単に想像できてしまう。

『吹くからに 秋の草木の しをるれば』ねー……。

「しかし、保護者に連絡も付かない無一文の若者を放り出すのは教育者として非常に胸が痛みます」
「!学園長先生……!」
「私、優しいので」
「学園長先生っ!」

私のお先真っ暗まっしぐらな未来に一筋の光をもたらしてくれたのは、誰あろう学園長先生その人だった。

その提案は、まさに天の助け。

自身を『優しい』と称した微笑は、聖母のそれにも匹敵するに違いない。
肩の装飾の羽根の輪郭さえ、幻視した後光によってキラキラと縁取られているように見えてくる程の感動が胸を占める。

学園長先生は腕を組んだまま唸り声を漏らし、仮面の顎に指を添えてしばらく考え込んでいた。

次に口を開いてくれる瞬間が待ち遠しい。
一体、どんな助けを齎してくれるのかと期待を込めた眼差しを一心に注ぎながら、ドキドキと脈打つ胸の前で両手を組む。

やがて、ポン!と手を打たれた。

その仕草を目の当たりにした瞬間、希望を見出して肩が跳ねる。
何か閃いたらしい学園長先生が人差し指を立てて、私にこう言った。

「学園内に今は使われていない建物があります」

曰く――昔、寮として使われていた建物なので、掃除すれば寝泊まりぐらいはできるそうだ。
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