第2章 入学式
今度こそ現実の日常の中へ戻っていることを信じていた。
目を覚ましたら自分の部屋にいるはずだって思ってた。
あたたかみのあるクリーム色の毛布に包まっていて、足元には人の脚を枕にして丸まっているあの子が時々寝ながら伸びた拍子に爪を引っ掛けてきて、枕元にはリボンを巻いたホワイトタイガーのぬいぐるみがちょこんと座っていて、爪とぎの痕でボロボロになってしまったカーテンの隙間から差し込む疎らな陽光の帯が新調したばかりのラグの上に伸びて、それから……。
『この者のあるべき場所は、この世界のどこにも無い……』
―――無である。
静まり返った鏡の間に闇の鏡の厳かな声だけが、ゆっくりと落ちていく。
……どこにも、ない?
帰る場所が?私の、故郷が?
何を言われたのかわからなくて、固まってしまう。
……どうしてかしら。
これが夢だって思っているはずなのに、言い知れない不安感がせり上がってくる。
妙な居心地の悪さは、次第に背筋を冷やしていった。
これは夢。夢のはず、なのに……。
急速にフラッシュバックしていく、様々な"違和感"――。
この夢を見始めてから、これまで見てきた光景。
全身で感じた炎の熱さ。
走った時の息切れと疲労感。
何もかもが現実と相違ない感覚。
夢にしては設定も世界観も作り込まれている、異様な具体性。
夢だと思い込んで、何もかもを呑気に受け止めてきた。
その代償が今になって、著しい現実味を伴って押し寄せてくる。
――――まさか。
辿り着くしかなかった可能性に、いよいよゾっとした。
口元を手で覆えば、震え始めた吐息が肌に吸い込まれていく。