第2章 入学式
追いかけてくるリドルくんたちを見やり、先程よりも近くなっている距離を再び離すべく、炎を吐いて時間を稼ごうとした――――途端、ハッと前方を見たグリムちゃんが目の前に迫っていた壁に気付いて、慌てて立ち止まる。
急いで身を翻そうとするも、手頃な逃げ道を探してキョロキョロと辺りを見回したグリムちゃんは、丸いお目目を見開いて愕然とした。
それもそのはずだ。
いつの間にか鏡の間は本来の姿をほとんど取り戻していて、自分が作り上げた火の海はすっかり消えてしまっていたのだから。
――――あの二人は、グリムちゃんに魔法を当てることを目的にしていたんじゃない。
最初から狙っていたのは、グリムちゃんが撒き散らした炎の方だったのだ。
火を消しながらグリムちゃんを行き止まりまで追い込み、最後に逃げ場そのものをなくす。
だから、二人ともちっとも焦っていなかったんだわ……。
ついに袋の狸――じゃない、鼠となってしまったグリムちゃんの背後に並び立つ、リドルくんとアズールさん。
「泳がされていたことにも気付かなかったんですか?哀れな小動物ですねぇ」
「観念するんだね。さもなくば……」
しかし、グリムちゃんは追い詰められてもなお、まだ入学を諦めていない。
最後の意地で抵抗を示すため、お腹が膨らむくらい大きな息を吸い込んだ。
「グリムちゃん!」
"止まって"という意味を込めて名前を叫ぶけれど、もう私の声に反応している暇はグリムちゃんにはない。
そもそも反応したとしても、私の言うことを聞く義理はないし、今更止まる気だってないのだろう。
だからこそ、大人しく観念しないのならば致し方ないとばかりにアズールさんが手に持ったスティックに魔法の光を集め始めた。
先程まではわざと外していた魔法が、今度は確実にグリムちゃんに当てられる――そう確信した。
これ以上、被害を出さないために……でも、そうなったらグリムちゃんは……。
言い知れない不安感に胸の前で手を組む。
アズールさんは、いつでも魔法を放てるよう静かにスティックを構えた。
けれど、横から伸びた腕が、その動きを制した。
リドルくんだ。
今まさにグリムちゃんが炎を吐き出す――寸前。