第2章 入学式
「ん゛な゛~~~!!」
身体を大きく開いて飛び上がったグリムちゃん。
力む声にも愛嬌が感じられる鳴き方だった。
けれど、すぐにそんな呑気なことを言っている場合じゃなくなってしまう。
グリムちゃんが口から大量の炎を吐き出したことで、青い火炎は勢い良く床を駆け抜けて部屋中に迸ったのだ。
みるみるうちに周囲が青い火に包まれていく。
炎に巻き込まれた生徒さんたちの式典服や身体の一部にも燃え移ったらしく、あちらこちらから悲鳴が聞こえてくる始末だ。
それでもなお炎は――否、グリムちゃんは止まらない。
むしろ周囲の阿鼻叫喚に気を大きくしたらしく、ぴょんと高く飛び上がりながら口を窄めて炎を噴き上げた。
うねりを描いて天井のシャンデリアにまで届いた炎が、装飾品を照り焦がす。
「このままでは学園が火の海です!誰かあの狸を捕まえてください!」
学園長先生の必死の呼びかけにも関わらず、真っ先に聞こえてきたのは舌打ちだった。
「かったりぃな」と、面倒ごとへの嫌悪感を隠しもしない低い男性の声が聞こえてくる。
次いで別の男性が「アラ、狩りはお得意でしょ?」と言った。
先程舌打ちをした男性を焚きつける物言いは上品でありながら、女性然としている。
まるまる太った絶好のオヤツじゃない、と女性口調の男性が言った『オヤツ』とは、まさしく得意げに青い炎を撒き散らしながら走り回るグリムちゃんのことに他ならなかった。
このままだとグリムちゃんが食べられてしまうのかと思ったけれど、言われた男性が"人に言う前に自分でやりやがれ"の精神の持ち主だったおかげで、グリムちゃんは食べられずに済みそうだった。よかったぁ。
フードを被っているせいで誰が喋ったのかまでは判別できなかったけれど、この騒ぎに全く呑まれていない様子の生徒さんは数名見受けられた。
パニックを引き起こす周囲と明らかに一線を画して、落ち着き払っている。
ひょっとしたら上級生の人たちなのかもしれない。