第2章 入学式
『この者からは魔力の波長が一切感じられない……。色も、形も、一切の無である。――――よって、どの寮にもふさわしくない!』
…………え、そんなことある……?
「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えに行くなんてありえない!生徒選定の手違いなど、この100年ただの一度もなかったはず」
闇の鏡が突きつけた、あまりにも簡潔で残酷な空前絶後の事実。
魔力がない――。
その断言が、由緒ある学園で百年積み重ねられてきた常識を呆気なく覆してしまった。
そんな馬鹿な、ありえないだろ、どういうことだ――堰を切ったように、どよめきが広がる。
先程、生徒さんたちを「静かに」と諫めた声さえ、もう聞こえない。
ここにいる誰もが目の前で起きた前代未聞の出来事に動揺していたからだ。
先程までとはまた全然違う居心地の悪さだ。
残念ながら、私はこの学園にお呼びですらなかったらしい。
あらあら、と口にしながら頬に片手を当てて、緩く首を傾ぐ。
まるで諸行無常ねー。
こうなったら……どうしたらいいのかしら?
意図せず学園の伝統を壊してしまったことや、場違いな人間としてこの場に立っている居た堪れなさや恥ずかしさよりも、困惑が圧倒的に勝っていたので、再び助けを求めるべく学園長先生を見た。
が、この場にいる誰より愕然としている様子の学園長先生はそれどころではなさそうだ。
ショックのあまり力も入らなくなったのだろう。
開かれた手から滑り落ちるようにして、カラン、とステッキが床に横たわる音が打ち響く。
あらまあ、と思ったのも束の間。
学園長先生がステッキを手放した拍子に、もう片方の手に持っていた鞭まで床に落としてしまったので、グリムちゃんも一緒に床へ転がったのだ。
「もごもご……ぷはっ!だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!」
「狸ちゃん!」
「だーかーらー!狸じゃねえって何度言えばわかるんだゾ!オレ様は、グリム様だ!!」
「グリムちゃん!」
拘束の緩みを得て、これ幸いとばかりに愛の鞭から抜け出すことに成功した狸ちゃん――改め、グリムちゃん。
我に返った学園長先生が慌てて待ったを掛けるけれど、再び捕まえようとする手から素早く逃れたグリムちゃんがそのまま闇の鏡の前まで駆けてきた。