第2章 入学式
『汝の名を告げよ』
本来、鏡は自分の姿を映すものだろう。
けれど、鏡の奥からゆっくりと浮かび上がるようにして現れたのは、自分の顔ではなく全く異なる人の貌。
白磁の彫像のような、仮面のような彫りの深い相貌は生物としての質感を全く感じさせなかった。
絡み付いた蔦のような紋様が刻まれた目元。
深く黒く窪んだ、瞳の見えない眼窩。怒りも哀しみも喜びも、あらゆる感情を削ぎ落した、無機質でいて不気味な顔。
ホラー映画のワンシーンを再現したような登場の仕方と相まって、恐ろしさと驚愕に悲鳴を上げそうになったのを寸でのところで堪えた自分を褒めたかった。
「――――ユウです」
緊張で竦みそうな喉に深く呑んだ息をぐっと流し込み、名前を告げる。
ユウ、と闇の鏡が私の名前を繰り返す。
ゆっくりと紡がれる声の低さは男性のそれであり、重々しい響きは荘厳だ。
『汝の魂のかたちは……』
入学式の延長とはいえ、この闇の鏡に寮分けをしてもらうという行為は、神聖な儀式の一環でもあるのだろう。
静まり返った部屋の中、闇の鏡の声の響きが染み渡るように溶けていく。
名前を告げるだけで私の魂の資質というものが決まるだなんて、摩訶不思議。
魔法の力を使えば、魂さえもが色付いて見えるものなのかもしれない。
自分が見ている夢なのに、この学園や世界観については何もわからない状態だから、これから自分がどんな選択を受けるのか正直ちょっとドキドキしている。
闇の鏡に寮分けをしてもらうとはいえ、肝心の寮の種類も特色も何も知らないのだ。
魂のかたちを見て所属する寮を選別するなら、私と似たような価値観や性格の人が集まる寮があるということなのかな。
仲良くなれたら嬉しいわー。
魔法使い――じゃなくて、魔法士のお友達が出来るなんて、それこそ夢みたいなことねぇ。
そんなことを考えながら闇の鏡の答えを今か今かと待つ。
…………。
…………待っているのだけれど、なんだか妙に間が長いような……?あらー?